2025年、中国で売れた新エネルギー車(NEV)は1,649万台。世界のEV販売の約62%を中国が占めています。

「中国EVがすごいらしい」というニュースは目にするものの、具体的にどのメーカーが何万台売っているのか、なぜあれほど安いのか、そして自社のASEAN事業にどう影響するのか。こうした疑問を持つ方は多いのではないでしょうか。

自分自身、タイに住んでいて街中のBYDやMGの急増を肌で感じています。この記事では、最新の販売データをもとに中国EVメーカーの勢力図を整理し、「安さの構造」と「タイ・ASEANへの波及」を掘り下げてみます。

記事のポイント

2025年通年の中国NEV販売は1,649万台で世界の約62%を占めました。メーカー別Top10では比亜迪(BYD)が中国国内348.5万台でシェア27.2%を維持しつつも前年比▲6.3%と初の国内割れ、吉利汽車(Geely)が+81%の急成長で2位に浮上しました。中国EVが安い理由は補助金(全体の6%)ではなく、**垂直統合(部品80%内製で50%)と低い間接費(37%)**が本質です。

タイでは2025年に日本車シェアが76.7%→69.3%に低下、初めて7割を割りました。一方、比亜迪(BYD)はタイ工場で2025年11月時点で累計7万台超を生産し、欧州輸出の拠点にもなりつつあります。

2026年Q1〜4月の最新動向:1月の購置税優遇縮小(全額免税→半減・上限1.5万元)で国内NEV小売は1-4月累計275.8万台(前年比▲17.2%)まで落ちましたが、4月単月のNEV小売浸透率は61.4%と歴史初の60%超えを達成。海外輸出は1-4月累計130.6万台、前年比+118.7%の倍増ペースで、4月単月の汽車輸出に占めるNEV比率は52.7%と歴史初の50%超えとなりました。詳細は記事末尾の最新動向セクションを参照ください。


5年間で12倍 — 中国NEV市場はどこまで来たか

中国のNEV販売台数は2020年の136.7万台から2025年に1,649万台へ、わずか5年で12.1倍に成長しました。

中国NEV販売台数の推移(2020〜2025年)

CnEVPost「China NEV sales total 16.49 million in 2025」2026-01 / 中国汽車工業協会

NEV販売台数前年比NEV比率
2020136.7万台+10.9%5.4%
2021352.1万台+157.5%13.4%
2022688.6万台+95.6%25.6%
2023949.5万台+37.9%31.6%
20241,286.6万台+35.5%40.9%
20251,649万台+28.2%47.9%

NEV比率は5.4%から47.9%へ上昇し、2025年10月には月次で初めて50%を超えました。新車の2台に1台がNEVという時代に入っています。

世界全体のEV販売2,070万台のうち、中国が約1,290万台(62%)、欧州が約430万台(21%)、北米が約180万台(9%)。中国だけで欧米を合わせた数を上回っています。


メーカー別販売台数ランキングTop10(2025年通年)

BYDが中国国内348万台、グローバル460万台で世界首位。一方、吉利が+90%の急成長でBYDの独占を揺るがしています。

中国国内NEVリテール販売Top10

中国国内NEV販売Top10メーカー(2025年通年)

CnEVPost「Automakers' share in China NEV market in 2025」2026-01、カッコ内はシェア

順位メーカー販売台数シェア前年比
1BYD(比亜迪)348.5万台27.2%-6.3%
2吉利汽車(Geely)156.5万台12.2%+81.3%
3長安汽車(Changan)78.9万台6.2%+26.8%
4上汽通用五菱(SGMW)77.2万台6.0%
5テスラ中国62.6万台4.9%-4.8%
6HIMA(華為系)58.9万台4.6%
7奇瑞汽車(Chery)53.1万台4.1%
8Leapmotor(零跑)53.0万台4.1%
9Seres(賽力斯/問界)42.3万台3.3%
10小米汽車(Xiaomi)41.2万台3.2%

注目すべき点がいくつかあります。

  • BYDは国内では-6.3%と初の前年割れ。成長を支えているのは海外販売(105万台、+150.7%)
  • 吉利のGalaxy Xingyuanが車種別販売で首位を奪取。BYD一強の構図が崩れ始めた
  • 小米が初の通年販売で41万台。SU7だけで25.8万台を売り、いきなりTop10入り
  • テスラの中国シェアは2020年の11%から4.9%に半減。Top10で唯一の外資メーカー

5年前にはTop10にいた北汽新能源やVWが消え、吉利、長安、HIMA(ファーウェイ系)、小米といった新勢力が台頭しました。


なぜ中国EVは安いのか — 補助金は全体の6%にすぎない

「中国EVが安いのは補助金のおかげ」という見方は、データで見ると正確ではありません。

ある日系自動車メーカー関係者から「中国メーカーには勝てない。国がバックアップしている。設計費用がほぼ無料だ」という話を聞いたことがあります。では実際のところ、安さの内訳はどうなっているのでしょうか。

米国のシンクタンクRhodium Groupが2026年に発表した分析が興味深いです。BYD SealとTesla Model 3(いずれも中国生産)の1台あたり約4,700ドルのコスト差を要因分解しています。

中国EVが安い理由 — コスト優位の内訳(BYD Seal vs Tesla Model 3)

Rhodium Group「Why Are Chinese EVs So Cheap?」2026

要因コスト優位割合
垂直統合(部品80%を内製)2,369ドル50%
低い間接費・R&D単価1,719ドル37%
政府補助金292ドル6%
サプライヤー支払いサイト延長214ドル5%
優遇融資12ドル0.3%

補助金の寄与は全体のわずか6%(292ドル)。安さの本質は、BYDがバッテリーからパワー半導体まで自社で作る「垂直統合」(50%)と、中国の低い間接費(37%)にあります。

もちろん政府支援がゼロではありません。CSISの試算では、2009年から2023年に累計2,309億ドルがEV産業に投じられました。ただし現在は補助金が段階的に縮小されており、2026〜2027年は車両取得税の50%減免(上限1.5万元)、2028年以降は通常課税に戻る予定です。

バッテリー価格の下落も見逃せません。BloombergNEFによると、中国のバッテリーパック価格は2024年の94ドル/kWhから2025年には84ドル/kWhまで低下。BYDは約44ドル/kWhまで下げています。


2026年Q1〜4月の最新動向 — 内需は底打ち、海外で倍増

トリガーは2026年1月の購置税優遇縮小です。2025年末まで全額免税だったNEV取得税が2026年から半減(上限1.5万元)に切り替わり、駆け込み需要の反動でQ1の国内市場が冷え込みました。しかし4月には油価高騰で燃油車市場が崩壊し、NEVへの転換が一気に加速しています。本セクションのデータは業界で最も信頼されるCPCA(乗聯会・全国乗用車市場信息聯席会)の小売ベース統計を基準としており、CPCA秘書長の崔東樹氏が月次で公開している数値です。

1-4月のNEV小売Top10メーカー — BYD首位だが新勢力が急伸

CPCAが2026年5月12日に発表した1-4月累計のNEV小売ランキングです。比亜迪(BYD)が20.3%シェアで首位を維持していますが、鴻蒙智行(HIMA)・新興メーカー・小米(Xiaomi)といった新勢力が大きく順位を上げています。

2026年1-4月 中国NEV小売Top10メーカー(CPCA)

CPCA「2026年1-4月新能源厂商零售销量排行榜」2026-05-12

順位メーカー1-4月累計前年比シェア
1比亜迪(BYD)55.9万台-42.1%20.3%
2吉利汽車(Geely)36.1万台-18.0%13.1%
3長安汽車(Changan)19.2万台-11.6%7.0%
4鴻蒙智行(HIMA)14.5万台+36.0%5.3%
5特斯拉中国(Tesla China)13.9万台-15.1%5.0%
6理想汽車(Li Auto)12.9万台+1.9%4.7%
7零跑汽車(Leapmotor)12.6万台(高成長)4.6%
8小米汽車(Xiaomi)11.8万台新規参入4.3%
9蔚来汽車(NIO)11.3万台+70.7%4.1%
10上汽通用五菱(SGMW)11.2万台-46.3%4.1%

特に注目すべきは新勢力3社です。鴻蒙智行(HIMA、華為と賽力斯の連合)は問界・智界・尊界・尚界の多ブランド戦略でBYDに次ぐ存在感を見せ、前年比+36%でNEV小売4位に入りました。蔚来(NIO)は前年比+70.7%、ES8の新型と新ブランド楽道・螢火虫が貢献しています。小米(Xiaomi)は1-4月累計11.8万台で初登場8位、SU7とYU7のSUVモデルで初年からTop10入りを果たしました。

BYD自身も20%超のシェアを維持しており、依然として中国NEV市場の絶対王者です。ただし前年比では▲42%と国内市場が落ち込んでおり、後述する海外輸出が成長エンジンに変わりつつあります。

出典 — CPCA乗聯会「2026年4月厂商销量排名快报」2026年5月12日

4月のNEV小売浸透率が歴史初の60%超え

3月単月のNEV小売浸透率は51.5%でしたが、4月には一気に61.4%まで上昇しました。新車の3台に2台近くがNEVという水準で、中国市場では「EVが標準、燃油車が例外」の状態に近づいています。

油価高騰でガソリン車の販売が崩壊した結果、4月の燃油車国内小売は前年比で大きく落ち込み、CPCAは「燃油車市場が崩塌式下滑」と表現しています。一方でBEV・PHEV・EREVを合わせたNEVが市場の主役になりつつあります。

出典 — CPCA乗聯会「2026年4月份全国乘用车市场分析」2026年5月11日

海外輸出が成長エンジン、4月は輸出の半分以上がNEVに

中国NEV輸出は1-4月累計で130.6万台、前年比+118.7%の倍増ペースです。4月単月の中国汽車輸出に占めるNEV比率は52.7%と歴史初の50%超えとなりました。

主要輸出先はブラジル、英国、ベルギー、UAE、ドイツ、タイです。CAAMの陳士華副秘書長は「毎日平均2.5万台の中国車が海外に出荷されている」とコメントしています。比亜迪(BYD)単独で1-4月にグループ販売の45%超が海外向けです。

出典 — 澎湃新聞「中汽協公布2026年一季度車市数据:内銷大跌,出海暴増」2026年4月13日、CPCA「2026年4月份全国乘用车市场分析」2026年5月11日

2026年通年予測 — 1,700〜1,900万台、浸透率は55%前後で頭打ち

業界の主要見方を整理すると、2026年通年のNEV販売は1,700万〜1,900万台のレンジに収まりそうです。CAAM(中汽協)は1月の発表で1,900万台・前年比+15.2%を予測しています。CPCA崔東樹秘書長は4月時点で1,730万台・+13.0%(乗用車批発ベース)と、CAAMよりやや控えめです。

UBSは「NEV市場シェアは53〜55%で頭打ち気味」と見ており、2025年の+28.2%から成長率は10%台前半に減速する見通しです。崔東樹氏は「2026年は国内が勉強企穏(やっと安定)、真正的増量看海外(本当の伸びは海外)」と総括しています。

出典 — CAAM「中汽協:預計2026年新能源汽車銷量達1900万輛」2026年1月14日、新浪財経「2026年一季度国内汽车销量482.3万辆同比下降20.3%」2026年4月20日


タイで何が起きているか — 日本車シェアが初の7割を割った

2025年、タイの新車市場における日本車のシェアが76.7%から69.3%に低下し、初めて7割を割りました。

自分がバンコクで暮らしていて実感するのは、比亜迪(BYD)のATTO 3やDolphinを見かける頻度が明らかに増えたことです。データもそれを裏付けています。

指標2024年2025年変化
日本車シェア(全体)76.7%69.3%-7.4pt
中国車シェア(全体)11.6%18.2%+6.6pt
中国車シェア(BEV市場)81.5%約85%拡大

日本メーカー別に見ると、トヨタは+4.4%と踏みとどまっていますが、ホンダは工場統合で生産能力を55.6%削減、日産はタイ第1工場での完成車組立を終了しました。

一方、比亜迪(BYD)はタイ・ラヨーン県の工場(年間設計生産能力15万台)で2024年7月から操業を開始し、2025年11月時点で累計7万台を超えています。さらにこの工場からドイツやベルギーへの欧州輸出も始まりました。

2026年1月には中国ブランドのシェアが単月で46.8%に急騰したというデータもあります。この数字が定着するかは見極めが必要ですが、トレンドの方向は明らかです。


ASEANへの波及 — タイは予告編にすぎない

タイで起きている変化は、ASEAN全域に広がりつつあります。 2026年1-4月の中国NEV輸出+118.7%は、この波及をさらに加速させる動きです。

EVシェア中国メーカーの状況
タイ約18%BEV市場の85%が中国メーカー
インドネシア約15%比亜迪(BYD)がEV市場首位(約45%)、10億ドル規模の工場建設中
ベトナム約40%VinFast(国産)が圧倒的。中国勢は苦戦するも奇瑞(Chery)が8億ドル工場建設中
フィリピン約5%比亜迪(BYD)が自動車市場全体で3位に躍進(前年比+446%)
マレーシア約4%→急拡大比亜迪(BYD)がEV販売首位(14,407台)

IEAの見通しでは、ASEAN-6のEV販売は2025年に50万台を超え、市場規模は2030年に186.6億ドル(CAGR 32.61%)に達するとされています。

興味深いのはベトナムです。国産メーカーのVinFastが2025年に17.5万台を納車し、市場の約3分の1を押さえています。中国メーカー最上位の上汽通用五菱(SGMW)でもシェア約1.5%にとどまっており、「中国EVが来れば全部持っていかれる」わけではないことを示しています。


日本企業にとっての選択肢

「中国EVには勝てない」で思考停止するのは早いかもしれません。 データを見ていくと、現実的な選択肢が3つ見えてきます。

1

中国メーカーへの部品供給

比亜迪(BYD)の垂直統合は80%ですが、残り20%には日本の精密部品が入る余地があります。実際、デンソーやアイシンは中国NEVメーカー向け事業を拡大しています。

2

ASEAN市場の「EV以外」

タイの新車販売62万台のうち、BEVはまだ約10万台。ピックアップトラックやHVなど、EVが浸透しにくいセグメントは残っています。広汽豊田(GAC-Toyota)が中国国内で前年比▲2.5%にとどまる抗壊力を見せたように、HV戦略の余地は依然として残されています。

3

「タイは中国の3〜4年遅れ」の時間差の活用

中国のNEV比率が5.4%だった2020年は、今のタイ(約18%)に近い状態でした。中国市場のデータを見れば、タイの3〜4年後がある程度予測できます。

比亜迪(BYD)が19万台から460万台に成長するのに5年しかかからなかったことを考えると、この時間差はそれほど大きくありません。判断を先延ばしにできる期間は、データが示す以上に短いかもしれません。

記事のまとめ

2026年の中国EV市場は「国内底打ち、海外倍増」の二極化が定着しました。 1月の購置税優遇縮小で内需は▲17%まで落ちましたが、4月にはNEV小売浸透率61.4%と歴史初の60%超え、燃油車から新能源車への構造転換が加速しています。

メーカー序列も大きく変動しています。比亜迪(BYD)は20%超のシェアを保ちつつも前年比▲42%で国内苦戦、代わって鴻蒙智行(HIMA)+36%・蔚来(NIO)+70.7%・小米(Xiaomi)初登場の新勢力が急伸しています。一方で海外輸出+118.7%は止まらず、ASEAN各国への波及はさらに加速する見通しです。日本企業にとっては、広汽豊田(GAC-Toyota)が中国国内で▲2.5%にとどまる抗壊力を見せたように、HV戦略やプレミアム戦略でASEANの「EV以外」市場を取りに行く余地が残されています。


【出典】

【2026年Q1〜4月の最新動向セクションの出典】